個人事業主に労働基準法の保護はない?

個人事業主に労働基準法の保護はない?

派遣労働が一般に広まっていくのに並行して、最近、じわじわと増えてきて社会問題になってきているのが「業務委託契約」にかこつけた、「ニセ派遣」や、一見個人事業に見える、「ニセ請負」です。

ニセ派遣は、「整理解雇はしたいけれど、これ以上人は減らせない。しかし、人件費を落とさないと会社が立ち行かなくなる。」という状況の会社でよく行われる手口です。正社員雇用されているめぼしい労働者に、「会社の経営が苦しいから、人件費の削減が必要になった。いったん退職して、派遣社員として会社と業務委託契約してくれないか?給料の額はそのまま据え置きにしておくから。」と持ちかけます。ここで、給料の金額は同じなら、と退職して、業務委託契約にしてしまったら、大変なことになります。正社員でなくなった労働者は、社会保険から、国民年金、国民健康保険へと切り替わります。給料は同じでも、手取りで受け取った中から、保険料を自己負担しなくてはならなくなりますから、実質の減給になってしまうのです。

おまけに、会社と業務委託契約で働くようになると、社員ではなく、個人事業主。仕事は請負という形になり、必要経費は全て自己負担です。結果として、会社は大幅な人件費削減に成功し、社員だった人は、本来なら会社が払っていた経費まで自腹で払って、会社の業務を行うことになってしまいます。

ニセ請負の方は、「ウチの代理店になりませんか?技術指導を受けて、こちらの用意した店舗で、独立採算で開業していただけます。宣伝費はこちらで負担し、最初の技術指導費と、売り上げの〇%をマージンとして納めてくれれば他に費用はかかりません。」と、フランチャイズ式の経営を呼びかけて募集を行います。企業を夢見る若者が応募すると、業務委託契約を締結するように促されます。

この話をそのまま鵜呑みにして参加してみると、技術指導というのは、半日程度の簡単な形ばかりの物で、数万円の費用を請求し、店舗というのも、テナントの隅っこの仮設コーナーみたいなお粗末なもの。宣伝などもチラシや名刺を印刷して渡すだけ。客が来ようがこなかろうが、無関係に「1日〇時間店舗に常駐すること」などの条項で店舗に拘束され、悪質なものになると、店舗維持の光熱費なども請求されたりします。

実質的には、本店側の指揮命令の元に労働しているのですから、雇用関係にあるのですが、給料はマージンを支払った残りの売り上げのみで、時給換算したら最低時給を完全に下回ってしまう、という事例が大部分です。

これらの事案の悪質なところは、労働関連法の網の目をかいくぐっているところです。この、一見別の問題に見える例は、どちらも「個人事業主は労働基準法で保護されない」というスキをついたものです。労働基準法は雇用契約を交わした雇主と労働者を対象にしているもので、請負や委任で働く個人事業主は保護の対象にはなりません。

しかしながら、これらのような事例の場合は、「業務委託契約による請負」を装っていても、実際は指揮命令系統の下で働いているので、「事実上の雇用関係がある」とみなされ、労働基準監督署の関与が可能な場合があります。
「おかしいな?」と思ったら、相談してみられることをお勧めします。